そこは、奥会津と呼ばれる土地。
見たことないけれど何故か懐かしい、心の中の故郷がそこにはあります。山と川に挟まれたごく小さな平地に人は自然と共生し、ここにしかない土着の地野菜を守りながらひっそりと、しかしとても豊かに暮らしています。必要な分だけいただく、最小限の暮らしの中には、もちろん24時間営業のコンビニエンスストアなんて必要ありません。
余計なものを削ぎ落とした生活の中で見えてくるのは、その地ならではの、食べ物、飲み物、人、大自然。そこはまるでイタリアのCampanilismo(カンパニリズモ)に通じるような、湧き上がる根源的な郷土愛に包まれた土地。心から、これからも残っていってほしいと願わずにはいられない、純粋なる原風景がそこにはあります。
そんな奥会津の金山町というところには、驚くべきことに天然の炭酸水が湧いているのです。
天然炭酸水はヨーロッパにおいて古くは古代ローマ時代から神聖なる水として大事にされてきましたが、なんと日本においては大分県の由布市とここ金山町のものの2種類しか市販されていないというのです。
山に降った雨や雪が地層によって濾過されながら地中深く浸透していった先で、マグマを由来とする炭酸ガスと接触して生まれるという奇跡の炭酸水。ヨーロッパでは沈静化した火山が多く二酸化炭素が水に溶け込みやすいので炭酸泉が発生しやすく、日本では活火山が多く源泉の温度が高いので二酸化炭素が水に溶け込まずに空気中に放出されてしまうといわれています。
只見川は群馬県と福島県にまたがる標高1665mの尾瀬沼に源を発し、新潟県と福島県の県境を流れ、福島県の会津盆地で本流である阿賀野川と合流して一気に新潟へと注ぐ巨大な河川です。
30億トンといわれる世界有数の豪雪がもたらす莫大な量の水は、海までの大きな高低差も利用して只見川に奥只見ダムや田子倉ダムといった巨大なダムを人間にして作らしめました。
日本で最も発電量の多い一般水力発電所が奥只見発電所で、次いで2番目が田子倉発電所ということからもわかるように、越後と会津の豪雪を一手に引き受けたようなとてつもないダムを只見川は抱えているのです。
(※富山県の黒部ダムの総貯水量は2億トンで、奥只見ダムは6億トン、田子倉ダムは5億トン弱と、比較するといかにそれらが巨大かがわかります。)
効率をとことん求めた実利的な経済成長の中においては見向きもされなかったこの水は、今またこの時代において再び日の目を見ることとなったのです。
それはもはや時代の必然。便利なだけが豊かさなのではないという想いとともに、これまで来た道を振り返るきっかけを与えてくれる。まるでこの水が、本当に大切なものは何かということを寡黙にも私達に教えてくれているような気がしてなりません。
旧会津藩士の男がこの水を白磁の瓶に詰め、戊辰戦争によって傷ついた会津から世界へと打って出た『太陽水』から数えて約140年。今も昔も、ひとの想いと、自然が創り出すものの価値は、何ひとつ変わらないのかもしれません。
奥会津金山天然炭酸の水は、心まで染みる美味しい水です。
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